あのとき、大川小学校で何が起きたのか
石巻の大川小学校の悲劇を取材した一冊です。
生徒104名中74名、先生13名中10名が死亡。
日常とあまりにもかけ離れた事が起きた時、それを信じられるでしょうか。隣の人が「大丈夫だ」すれ違った人も「落ち着きましょう」といったら、それでも自分の感覚を信じて行動できるでしょうか。
- 作者: 池上正樹,加藤順子
- 出版社/メーカー: 青志社
- 発売日: 2012/10/24
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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昨日紹介した本「人はなぜ逃げおくれるのか」によると日本や欧米での調査結果では、「災害ですよ、逃げてください!」ときいたとき、実際に避難する人々は50%を切るのだそうです。
以前の震災ビッグデータの講演でも、あれほど避難してくださいと呼びかけたのに、地震発生から津波襲来までの間に浸水域の人数はむしろ増えていた、いったいどう呼びかけたらよかったのだろうかと苦悩していました。
日常は安全であるという感覚になれてしまって危険を実感できない。自分の感覚より、どこか遠くにいる他人の指示を優先してしまうのは、現代社会の脆弱性であると思いました。
口絵のかつての風景写真をみると、そこが海が目の前であるとは思えない町づくりをしています。埋め立てられ、高い堤防を築き、日常生活と海を分断してしまったこと。相当に海好きな人でなければ、ここに海があることを意識する事は無かったのだろうと思います。そして、海に背をむけるように小学校が建てられます。ハザードマップでも避難訓練でも、ここは安全だと繰り返し教えられます。
大川小第2回弁論、遺族側が検証資料開示を求める 石巻市は「ハザードマップを信頼していた」|大津波の惨事「大川小学校」~揺らぐ“真実”~|ダイヤモンド・オンライン
津波がくるなんて到底思えなかったのでしょう。どこか遠くでおこっている事としか思えなかった様子が伺えます。
正常性バイアスのもう1つの有名な事例は、1938年の火星人襲来です。ラジオで火星人に襲われた、地球はもう終わりだと聞き、慌てた人々がたくさんいましたが、他の番組では特にそんな報道はされていないし、周りの人達は冷静だしと、人々はだんだん落ち着いて行きました。デマや流言に流されないように働く、人間社会の機能です。
だけど、大川小学校ではそれが強く働きすぎた。本当に災害が目の前に迫っているのに、周りの人達と『安全』を確認して、このままで大丈夫だと落ち着いてしまった。そして、その流れは災害後の調査にも表れています。なかったことにしてしまいたい。思い出すだけで痛みが走る。先生達は保護者であると同時に、予期せず災害を強化する圧力となってしまった。そして先生自身も被災者であること。
一体、どうやったら真実にたどり着けるのか。
この本の物語は、まだ続いています。